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ダイエット考
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ダイエット考

ダイエット宣言

やってやる!これを食べたらやってやる!

食欲の内的背反原理を見事に表現したこの大阪サラリーマン川柳にはいたく感心させられた。体型美の基準は時代に揺れ動くが、スリムが美形の平均値を獲得した現代では、スリムな体型は今や若者のヒステリックな努力目標となっている。体重を身長の2乗で除した値(Body Mass Index)が18~25を標準とし(22を標準体重と呼ぶ)、それ以下を低体重、25以上を肥満とする。
ところで、動物の行動エネルギーの大半は日々の食物調達に費やされ、これに成功したもののみが生殖育児行動を介して生き残ってきた。われらのご先祖様も、マンモスに怖じけず、長期間の空腹に耐えて走り続けなければ、己の遺伝子を残せなかった。アルプスの氷河で発見された約5000年前のミイラには、肥満や動脈硬化などの生活習慣病の気配は微塵も見られず、限界近くまで筋肉を駆使して野獣に挑み、過酷な飢餓に耐えて生き延びてきた様子が伺われる。ヒトや動物は、食べた物を徹底的に体内に蓄え、いつまで続くか予想出来ない飢えと弱肉強食の掟をくぐり抜けて生き延びてきた。
これが、アフリカの大地溝帯で生まれて以来、農耕生活が始まるまでの長い時間をかけて創造してきたホモサピエンスの設計原理である。視床下部腹内側核の満腹中枢は、交感神経を刺激して血圧や血糖を上げる闘争ホルモンを分泌させ、脂肪分解を促進する。その横にある視床下部腹外側核の空腹中枢は、脂肪酸により刺激され、迷走神経を介してインシュリン分泌を促す。このため、満腹中枢の過刺激状態が持続すると交感神経過緊張状態となり痩せてくるが、空腹中枢の過刺激状態が持続すると副交感神経過緊張状態となり、飢餓感が増強して過食性肥満になる。

ダイエットのイメージ写真

産業革命以来、人間は圧倒的な食品生産法と保存技術を発明し、飢えることを忘れてしまった。これは永い生物史上ではきわめて例外的現象である。平和ボケした日本では、戦中戦後の飢えすら忘れてしまい、バブル華やかな時期には生物要求量の2倍ものエネルギーを摂取していた。しかし、飢餓時代の身体の設計原理は依然として生き続けているため、体脂肪が貯金され過ぎても食欲中枢は満足することを知らない。この原理が慢性過食と遭遇し、肥満や糖尿病などの生活習慣病を引き起こす。三大欲の中でも食欲の克服は最も困難であり、ダイエットは本来反生物学的行動なのである。このため、現代人は摂取したオーバーカロリーをひたすら運動エネルギーとして消費すべく、ジョギング、水泳、エアロビクスなど、実に涙ぐましい努力をすることになった。

ラットを絶食させると、脂肪、臓器、および筋肉の重量がすさまじい勢いで減少し、わずか2日間で20%の体重減少となる。これは涙ぐましいダイエットを行っているヒト族にとっては、羨ましい限りである。狭いカゴにとじこめまれたラットでも、その運動量は5~10kmの移動距離に匹敵する。ラットの体重を300g、ヒトの体重を60kgとすると、両者には200倍もの差がある。このため、ヒトがラットのエネルギー消費量に匹敵する運動を行うには、毎日250~500kmのジョギングを行わなければならない。これでは運動中に突然死でバタバタと倒れてしまうことになる。
ちなみに、ヒトが運動により体重を20%減少させるには、毎日の平均的ジョギング量を100日間持続しなければならない。エネルギー収支の観点から、運動による体重減少がいかに困難であるかがわかる。

ダイエットのイメージ写真

しかし、このことから、活性酸素産生を増加させる運動が全て無益であると結論することは浅薄である。糖尿病患者ではインシュリンの作用が低下するので、急激な運動を行うと脂肪分解が促進し、血中の脂肪酸濃度が急増する。これは不整脈をはじめとする心臓障害の基になりうる。ちなみに、腹部の過剰脂肪がインシュリン抵抗性の男性心疾患患者の25%、女性患者の60%の原因となっている。これらの患者に約45分間の軽度運動を行わせると、インシュリン抵抗性が軽減し、非抵抗性糖尿病(NIDDM)と冠動脈性心疾患(CHD)をそれぞれ25%及び50%低下させ、顕著な予防治療効果がみられる。また、骨格筋を動かすと、筋内動静脈とリンパ管がマッサージされる。これは特に静脈系に対して大きな影響を及ぼし、数分間のトレッドミルで循環動態が劇的に改善する。動脈のマッサージによりNOが産生され、血管が若く保たれる。しかし、運動は体重減少には極めて非効率的であり、エネルギー収支改善には、そのインプットを抑制する方がはるかに効果的である。

ところで、同じカロリーの摂取でも、時間要因も大切であり、遅い夜食は肥満の大敵であり、深夜の大食は翌朝アゼンとなる即効性の代物である。ちなみに、冬眠する熊では、直前に摂取した食物のほとんどは脂肪変換され、半年間の絶食でも体重はほとんど減少しない。摂食のタイムコースも重要である。総カロリーが低いからとて、おのおの方、油断めさるな!